彫刻の世界へ!「日展」内閣総理大臣賞受賞の流経大・中原篤徳教授インタビュー
令和4年11月3日、「第9回日本美術展覧会」の各賞が発表され、彫刻部門で流通経済大学経済学部の
茨城県の会員の方が受賞するのは、22年ぶりの快挙とのこと。
流通経済大学で美術史などの教鞭をとる傍ら、彫刻家として活躍されている中原篤徳教授。
これまで数々の賞を受賞されてきた中原教授に、今回の栄えある内閣総理大臣賞受賞の喜びや、作品に込めた思いを伺い、彫刻の魅力に迫りました。
受賞の喜びを語る中原教授
日展の賞状
賞状を持つ中原教授
受賞された今の気持ちをお聞かせください
今回の受賞は、思ってもみなかったことで私自身も驚いていますが、素直に嬉しいです。
日展は、明治40年から「文部省美術展覧会」にはじまり、形を変えながら、今回で115回目を迎える歴史ある展覧会です。
現在の日本美術展覧会自体は9回目ですが、日本で最大規模の歴史ある展覧会において、内閣総理大臣賞という最高の賞を受賞できたことは大変光栄に思います。
受賞作品「無垢の予兆」にはどのような思いが込められていますか?
作品名の『無垢の予兆』は、19世紀の詩人でウィリアム・ブレイクの詩からとったタイトルです。
彫刻はモデルを見ながら制作していくことがほとんどですが、今回の作品はモデルがいなく、私自身の中で描いた人物にしていくという初の試みになりました。
モデルがいないというのも、今回の作品は、流通経済大学のキャンパス内にいる学生をイメージして制作したからです。
この作品は、私自身が関わってきた学生の何気ない日常を真摯に見つめ、キャンパス内を歩いているときに、つい声をかけたくなるような気持ちを大切にしていきたいという思いが詰まっています。
意識しなければ、一粒の砂となってしまうかもしれない学生一人ひとりを大事にしたいという願いも込めています。
大学に勤務しながら制作に励んだからこそ、完成できた作品だと感じています。
特に、学生にはこの作品を見て「作品のモデルは自分自身かもしれない、隣にいる友達かもしれない」と、感じてもらいたいと思っています。
中原先生が考える彫刻の魅力はどのようなところですか?
絵画などと異なり、空間を共有できる美術作品であることが彫刻の魅力です。
立体であるため、正面からだけではなく、360度上下左右、角度を変えて見られるなど、さまざまな視点から楽しむことが可能です。
当然ながら、作品は声を発しませんが、実際に鑑賞していると作品が語りかけてくれる感じがします。
作者は、作品を作りますが、見る人の気持ちもとても大切だと思います。
作品に対する捉え方というのは人それぞれですが、作品を見て感じたことを味わっていただいたり、共感していただいたりすると嬉しいです。
流通経済大学の教授として今後、どのようなことを学生たちに伝えていきたいですか?
私のゼミ生の中には、今まで美術館に行ったことがないと話す学生もいました。
授業は、何かのきっかけになれば良いと思っています。
授業で種を見せて、拾ってもらい、育ててもらえれば、その種が自分の成長を助けてくれるかもしれません。
実際に、スポーツで活躍していた学生が「芸術の世界を見て、勝ち負けの無い世界を知った」と話していたこともあります。
自分が見ている世界の中だけではなく、芸術の面白さや豊かさを授業で知り、違う世界が見えたことで、結果的に学生の成長を助けられる授業になればよいです。
これからでもいいので、造形芸術から得られる豊かな世界を感じてほしいです。
龍ケ崎市民に向けたメッセージをお願いします
これまで関わっていただいた市民の方をはじめ、多くの方に支えられてきたからこそ、今の私があると思います。
今回の受賞作品だけでなく、流通経済大学2号館などにある、他の私の作品もぜひ見ていただける機会があると嬉しいです。
龍ケ崎には古い建造物が残され、市民の皆さんが文化や芸術を守り育ててきたと実は感じています。
ぜひ、龍ケ崎の文化・芸術の土壌を大切にしながら、その奥深い魅力を楽しんでいただけたらと願っています。
内閣総理大臣賞受賞作品
作品名
無垢の予兆
受賞理由
塑像の石膏作品だが、白一色の表面のディテールに工夫が凝らされ、単純な立像ながらユニークなニュアンスを生み出している。
衣装のラフな表現も手足や顔の造作との巧みな対比をなしている。
伝統的な技法を、今日的なカジュアルな若者の姿と結び付けている点を評価したい。(出典:日展ホームページ)
プロフィール
中原 篤徳(なかはら あつのり)
所属(学部・職位・学内役職)
経済学部 教授
学歴/経歴
- 筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科芸術学専攻 修了
- 筑波大学芸術学系助手(文部科学教官)
- 田園調布学園大学子ども家庭福祉学科専任講師
- 田園調布学園大学子ども未来学科准教授
- 現職
担当科目
- 美術史 リベラルアーツ入門
- 保育表現技術(造形)
- 4年演習(ゼミ)
研究・専攻分野
彫塑制作、近代日本彫刻史、美術教育
関連情報