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冷夏による災害は大陸東岸の島国日本で最も著しい

更新日:2018年3月1日

1993年(平成5年)は異常な冷夏の年で、水稲作況指数が全国平均74という大凶作のため国内産の米の値段が2倍以上にもなったことで記憶に残っていることでしょう。
茨城県では気温低下は大きくはなかったものの日照不足が著しくで、水稲作況指数が87という「著しい不良」となり、農作物被害は160億円にもなりました(図46)。
冷湿北東気流の流入する青森・岩手の太平洋岸では、水稲の収穫はほぼ皆無でした。一方、奄美大島よりも南は通常の暑い夏で、豊作年でした。

図46水稲作況.jpg

冷夏による災害は、自然地理的条件および農耕条件ゆえに、極東の島の稲作国日本において地球上で最も激しく現れます。
緯度が30~50度の地帯は、北方の冷たい極気団と南方の熱い亜熱帯気団の境界である寒帯前線帯にあたります。
気団の境界には強い偏西風(ジェット気流)が吹いています。
前線帯は全体として夏に北上し冬には南下しますが、偏西風帯の蛇行によってもその位置は場所ごとに異なった南北振動を起こします。
ユーラシア大陸中央部にはヒマラヤ・チベットの広い高山岳域があります。
この風下にあたる東岸域(極東地域)では、ジェット気流は大きな波動を起こし、また、山岳の南と北を回りこむ流れが合流して強くなります(図47)。
北米大陸に比べ陸地や山岳の規模が大きいので、偏西風は大きく波打ちます。

図47偏西風波動.jpg

偏西風波動により極気団が大きく南へ張り出し、ショートカットにより切り離されブロックされた状態になると、低温が続きます(図48)。
停滞した気団の境界は前線帯となり雨天と日照不足が続きます。
日本は島国で流入する気流はすべて海を渡ってくるので、下層に多量の水分を含みます.これが霧をつくり雨を多くして、日射を妨げ低温をもたらします。

図48ブロッキング.jpg

ユーラシア大陸東岸域はモンスーン気候下にあり、夏には南東からの気流に支配されてかなり高緯度まで暑いのが通常です。
冷夏は北日本で10年に1回ほどの頻度です.降水量もまた多く、同緯度の他地域の2~3倍あります。
暑い夏の年が多く水が豊富という自然環境を生かして、人口扶養力の大きいイネが主食穀物として栽培されています。
イネは亜熱帯が原産地で、小麦・トウモロコシに比べ2倍ほどの温度積算量を必要とします。
活発な光合成活動を行って多量の生産物を貯蔵する穀物にとって日照不足は大きな障害ですが、とくにイネにとって夏の低温・日照不足の影響は厳しくなります。


日本に冷夏をもたらす気圧配置には、北東気流型と北西気流型(寒冷渦型)とがあります。
北東気流型はヤマセ型と言われるもので、夏になっても北方のオホーツク海高気圧が強くて日本付近にまで張り出し、北日本の太平洋側に冷湿の北東気流(ヤマセ)を送り込むというものです(図49)。
この気流は寒流である親潮の上を渡ってくる間に冷やされるので霧が発生し、北海道と東北の太平洋岸に吹き込んで低温と日照不足をもたらします。
ヤマセの気流は高さが1000mほどと低くて山でさえぎられるので、日本海側はあまり低温にはなりません。

図49気象.jpg

北西気流型は、夏季になっても大陸が低圧部とならずにシベリア高気圧が残り、寒冷な北西気流が寒冷渦となって日本付近に流れ出すものです。
この場合は北日本あるいは日本の全域が低温になる可能性があります。
エルニーニョの時には太平洋高気圧の中心が東に偏るので、北方気団が張りだしてきて日本では冷夏になりがちです。


水稲の生育には22℃~26℃が適温、24℃付近で収量が最大で、これをはずれると減収が大きくなります。
生育期の低温は成長が遅れるという遅延型冷害を、結実期の低温は実が結ばないという障害型冷害を引き起こします。
夏を通じて低温が続くと遅延型と障害型の冷害が重なって大凶作となります。
前線が日本付近に停滞すると長雨と日照不足によって、更にそれによる病虫害の発生が加わり、減収は一層大きくなります.1993年には北東気流型と北西気流型とが重なって、9月初旬まで全国的に低温・日照不足が続き、梅雨明けが宣言できなかったほどでした。
農作物の被害額は1兆円(内水陸稲81%、地域別では東北51%、北海道23%)にのぼりました。


北日本の夏季気温の年変動は大きく、しばしば冷夏に見舞われています。
とくに18世紀から19世紀半ばにかけて地球全体の気温が低下し、日本でも頻繁に冷害とそれによる飢饉が起こりました。
この期間には3年に1回の頻度で東北凶作・大凶作の記録があります。
とりわけ、享保(1717~20)、天明(1783~89)、天保(1833~38)の冷害と病虫害による飢饉はもっとも厳しいもので、それぞれ100万人ほどの死者(多くは餓死)がでたと推定されます。
収穫不足が飢饉にまで至り死者が出るか否かは、社会の安定度や経済水準などに依存します。
将来、日本において飢饉が生じないという保証はないでしょう。

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